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アイドルとオタク、BEYOOOOONDSと私

演劇女子部「ビヨサイユ宮殿」。ただただ面白く眩しくBEYOOOOONDSらしいエナジーに満ちた舞台だった。

この1週間ほど該当担でもないくせにアイドルグループって……アイドルとオタクの関係性って……と色々と考えてしまう日々で、永瀬廉さんのラジオでの切実な語りに胸を締め付けられる思いだった。ファンがいたから2人になってもグループを、アイドルを続けようと思った、だから無力と思わないで。という言葉は、一つの救いでもあった。(だからといって脱退する3人がどうだとか言いたいわけではなく。)
いずれにせよ、推しは推せるときに推せ、なんていうのは対岸から眺めてる人間の言葉であって、推せるだけ推してきたから全力で応援してきたからこそこんなにも苦しい。共に歩んできた日々を愛おしい思い出として昇華できるまでにはたくさんの時間が必要だ。

そんな感じで勝手にダウナーになっていたところに、アイドルBEYOOOOONDSが架空のアイドルを演じるメタ表現を圧倒的輝きと共にぶつけられたこと、それが眩しくもあり少し苦しくもあった。
ストーリー自体は18世紀フランスに生きるマリー・アントワネットがひょんなことから現代の日本にタイムスリップし、二つの時代を行き来しながらさまざまな気づきを得て成長してゆく、シンプルな転世もの。ただそのタイムスリップ先がアイドルグループ(しかもコンセプトは近世ヨーロッパのお姫様)という設定が最大のキーになる。

山﨑夢羽さん演じる主人公マリーはタイムワープを「神様が与えた"試練"」と受け止め、魅力あふれるオーラと歌声=説得力で周囲を巻き込んで行く。それを支え共に"試練"に立ち向かうリーナ里吉うたのさんの健気さ。ルソーを演じる平井美葉さんは狂言回しとして見事に立ち回り、ふたつの世界の物語を繋げてゆく。
マリーに心動かされ逞しく成長してゆくルイ16世と、宮廷で暮らすお嬢様風なお嬢様……ではなく正真正銘の貴族たち、駆け出しのアイドルグループBURBOOOOONDS所属の個性豊かなメンバー、芸能プロダクションの社長……とそれぞれの役を生きるメンバーたち。脚本・演出の少年社中 毛利亘宏さんも公演プログラムで、BEYOOOOONDS自体がこの物語の形成に影響していると書いていらっしゃったけれど、当て書きとまではいかないまでもこの作品はBEYOOOOONDSでないと成り立たない部分が確かにあるように思う。それぞれの個性とポテンシャル、それらが集まった時のグループの輝き、普段の何でもあり感が、作品としっかりと呼応していた。

突如やってきたマリーとリーナを加えデビューしたBURBOOOOONDS。ファンを民衆と呼びライブを謁見と呼ぶなど、世界観はそのまま18世紀フランスの宮廷社会に対応してゆく。アイドルとしてのプライドや負けん気を人一倍持っている前田こころさん演じるマグリットや、キラキラと輝く存在に憧れているイリス(清野桃々姫さん)と、アイドルの象徴のような役柄が並ぶ。
お披露目ライブシーンのメンバーの目の輝きはBEYOOOOONDSデビュー時や、初武道館公演で上の方まで埋まった客席を幸せそうに見上げる姿に重なった。握手会のシーンではいろんなファンがいるからこそ一人一人と向き合うの。あなたがいるから私たちは頑張れる、輝ける。とあの歌唱力で歌い上げられてしまえばもう何も言えなくて。舞台と客席で向き合い、アイドルの演じるアイドルをオタクはオタクとして見つめる。普段のBEYOOOOONDSと自分との関係を遠くから眺めている気分になる。なんというメタな世界。改めて、普段自分がどれだけBEYOOOOONDSの輝きに救われているかを実感し、だからこそ切なくなった。

そして激動のフランス革命期、マリー・アントワネットという魅力的な題材と、現代アイドルという演じる本人たちにも通じる存在が掛け合わされるとこんなにも面白い。マリーやルイら宮廷の人間たちが王室の革命の決意を歌うシーンで拳を掲げる演出は、レミゼラブルの民衆の歌みたいだなあ、と勝手に重ねて思った。

それぞれが理想に、夢に燃え、悩み、考え、目の前の道を一つ一つ選び進んでいく。フランス革命期の人々と現代を生きるアイドル、どちらにも通じる眩しい輝きがそこにはあった。BEYOOOOONDSという奇跡のような12人が、これからもさらに輝きを増し進んでいく未来が見えた。アイドルは儚いものだ、だからこそ眩しい一瞬一瞬を愛し、未来を信じたいと思った。そんな舞台「ビヨサイユ宮殿」でした。

 

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2022.11.12
演劇女子部 ビヨサイユ宮殿
こくみん共済coopホール/スペース・ゼロ