作品概要
原作は、イタリアの劇作家、アルバート・カゼッラによる戯曲『La morte in vacanza』(1924)に基づき、ウォルター・フェリスが1929年に『Death Takes A Holiday』として英語で戯曲化。その後、同タイトルで1934年にフレドリック・マーチ主演で映画化(邦題:明日なき抱擁)、1998年にはブラッド・ピット主演で『ミート・ジョー・ブラック(邦題:ジョー・ブラックをよろしく)』としてリメイクされました。
オフ・ブロードウェイミュージカル版は、『TITANIC』で成功を収めたピーター・ストーン(脚本)とモーリー・イェストン(作詞・作曲)のコンビにより産み出され(2003年ピーター没後、トーマス・ミーハンが執筆を継承)、オフ・ブロードウェイで2011年6⽉〜9⽉に初演、その後2017年1⽉〜3⽉にはオフ・ウエストエンドのチャリングクロス劇場で上演。日本では2023年に宝塚版が上演され、大きな話題を呼びました。
あらすじ
これは、人類が史上未曾有の“死”に取り憑かれた第⼀次世界大戦の悪夢から覚め、“狂乱の”1920年代が始まって間も無い頃の物語……
深夜、イタリア北部の山道を“飛ばして”走る⼀台の車があった。乗っているのはランベルティ公爵⼀家。一人娘グラツィアの婚約をヴェニスで祝った帰りなのだ。だが⼀家を乗せた車を悲劇が襲う。突如現れた“闇”にハンドルを取られた車がスピンし、グラツィアは夜の闇へと投げ出されてしまうのだった……!
……大事故に遭ったにもかかわらず、まるで何事も無かったかのようにグラツィアは無事だった。彼女の無事に安堵する⼀同。
しかしグラツィアは、自身に“何かが”起こったと感じていた。
同じ夜遅く、死神がランベルティ公爵の元を訪ねる。
一人孤独に、死せる魂を“あちら側”へと導き続ける事に疲れ果てた死神は、二日間の休暇を公爵⼀家と共に過ごす事にしたのだが……︕
キャスト・スタッフ
死神/サーキ:小瀧望
グラツィア:山下リオ/美園さくら(Wキャスト)
エリック:東啓介
コラード:内藤大希
アリス:皆本麻帆
デイジー:斎藤瑠希
ヴィットリオ:宮川浩
ステファニー:月影瞳
ダリオ:田山涼成
エヴァンジェリーナ:木野花
フィデレ:宮下雄也
ロレンツォ/飛行教官:西郷豊
脚本:トーマス・ミーハン、ピーター・ストーン
作詞・作曲:モーリー・イェストン
潤色・演出:生田大和(宝塚歌劇団)
Based on the dramtic play by Alberto Cassela.
Rewiritten for the American stage by Walter Ferris.
And originally produced by the Messrs. Shubert.
スケジュール:
2024/9/28-10/20 東急シアターオーブ
2024/11/5-11/16 梅田芸術劇場 メインホール
上演時間:一幕95分/休憩25分/二幕70分 (計:約3時間10分)
観劇日:9/28(東京初日), 10/7, 10/12, 10/19, 10/20(東京千秋楽)
構成
画像はデスホリロスをどうにか埋めようとした凝り性ヲタクによる、オフブロードウェイ音源・宝塚音源・今回のプログラムにクレジットされた曲目の比較表です。(自分でも何やってるんだろうと思ってはいるので、笑って見てほしいなという感じ……)
潤色ということもあり、おそらくオフブロードウェイでの初演とは違うところもいくつかあるのかな、という印象。
1幕

1幕は陽光のような輝きに溢れている。初めての”生きる”休暇への希望に満ちた「ALIVE!」、「LIFE'S A JOY」は美しい人生讃歌。「パリの人たちみたいに」は観客もサーキと共に当時の文化の香りを浴びて。タップダンスが一つの山場となっている一方で、「ロベルトの眼」が戦争の気配を色濃く感じさせ、死神への暗い影を落とす。
婚約は序盤で早々に破棄され、グラツィアとサーキが少しずつ惹かれあっていく様子が「あなたは誰?」で瑞々しく、「LIFE'S A JOY(リプライズ)」で面白おかしく描かれてゆく。ラストの「あなたと二人なら」は ”死”は”二人が永遠に一緒にいられるただ一つの道”という、この物語のラストを暗示させるテーマとともに劇的に歌い上げられる。
2幕

2幕は少しずつ影を落としていくような暗さが漂う。人々の衣裳も徐々にダークトーンに変わり、Pavaneでは完全な黒となる。「ロベルト失って」では死神の残酷さを抉り出し、父ヴィットリオの言葉も死神を追い詰めてゆく。そんな死神/サーキの想いと葛藤を乗せて歌い上げる大曲が3曲。「MORE AND MORE」はグラツィアとこれ以上一緒にいてはならないという葛藤と、グラツィアへの愛の歌。「人として、生きて」は死神のままでは知らなかった”生きること”への切実な想い。「ONE MORE DAY」では痛みとともにグラツィアとこの世に別れを告げる決意。この曲は非常に歌謡チックで歌劇的というか、宝塚のスターがこれを歌う姿はぴったりだなと勝手に思っていたのですが、宝塚版の感想などを観ていると「ONE MORE DAY」は宝塚版を上演するにあたり追加された楽曲とのことで納得。
しかし結局グラツィアの生命は死神とともに失われ、そして命令に背いた死神にもこの先何が起きるのかはわからない。ただ、彼は最初の頃とはまるで違う。「生きること」「愛すること」を知った死神と、それを身をもって示したグラツィアの最期はきっとハッピーエンドなのだ。
・音源たち
一つだけ納得できていないのは装置の転換。目まぐるしく変わってゆく転換は見応えがあるのだが、スケルトンゆえに転換スタッフが見切れてしまう。転換着を着させてもよかったのでは。基本スタッフは見えないものという了解はあるがそれにしても目立ちすぎ、現実に引き戻されそうになる瞬間が何回かあった。この作品に限らず、この程度の転換の見せ方でよしとしている感じが最近多い気がしている。あまり美しくないなと個人的には思います。
感想など
Mixed Juiceのライブ映像を観てWESTのFCに入った後、WEST(のメンバー)を生で初めて拝見したのは2023年1月。小瀧望さん主演「ザ・ビューティフル・ゲーム」だった。初ミュージカルにして初主演ということにまず驚き、しかもそれがこの重たく複雑な作品ということにも驚いた。長身と整ったビジュアルという恵まれた容姿は非常に舞台映えするし、声質も伸びやかで、共演の木下晴香さんやとんすけくん(東啓介さん)、豊原さんなど実力派ミュージカル俳優陣に全く引けを取らない。アンドリュー・ロイド=ウェーバーの難解なメロディに対し必死さの残る部分は拭えなかったけれど、その懸命さがまたこの作品においては切実さを増す要素となっていた。こんな才能と魅力に溢れた人がいるんだと大袈裟ではなく震えた。これが私と小瀧望さんとの邂逅だった。
演出の生田先生もプログラムで書いていらしたが、この舞台をきっかけに『DEATH TAKES HOLIDAY』死神役(主演)が決まったというのなら、それは納得だなと思う。
作曲はモーリー・イェストン。『グランドホテル』・『ファントム』・『タイタニック』など存じ上げてはいたが、とにかく音楽が素晴らしい。登場人物の心情を美しく表現する楽曲、人生讃歌を歌い上げるコーラス、タップダンスをはじめ20c初頭のカルチャーと音楽、と王道でクラシック。そして死神という壮大な世界観がもたらす重厚なグランドミュージカル感。私が一番好きなミュージカルはそういう、20cの時代とショウの魅力が詰まった作品たちなので、もうどストライクとしか言いようがない。
いつかはそんなクラシックな作品に出てくれることを心のどこかで願っていたから、『デスホリ』で主役を務める小瀧さんのことが本当に眩しくて嬉しくて仕方がなかった。登場時のリバーブのかかった死神の低い歌声はオペラのように深く響き、サーキ王子は打って変わって張りのある魅力的な歌声で誰もを虜にする。プログラムの対談で演出の生田さんもおっしゃっていたけど本当に恵まれた音域を待っている。
衣裳もヴェネツィアのカーニバルのような死神の衣裳、王子の軍服っぽい正装、光を受けて輝くグレーのスーツ、黒のベロアタキシード、全部似合ってて全部最高に格好よくて(ネグリジェは可愛かったですね)。ハイトーングレージュっぽいウィッグの髪色は、昼間のシーンやキラキラしてる時は王子様みたいなブロンドに見えるし、死神の面が出てくる暗いシーンは暗く沈んで見えて、とても良かった。
サーキ王子になり全部初めての経験に驚いて喜ぶ姿は、登場シーンの重たさとは打って変わり可愛いらしい。何百年何千年を経てきた死神にしては意外だったけれど、何万年過ごそうと死神にとっては一瞬で、何も考えず命令を淡々とこなしていた彼に成熟は必要ない、ある意味子どもみたいな存在でもあるんだと物語が進むうちに思うようなった。だからこそ命令に背いてグラツィアを助けて、人間の生命について、人生について知りたいと思ったんだろう。そして衝動に逆らえず彼女と恋に落ち、死神の力をもってヴィットリオを脅し従わせようとする。感情的になったかと思えば突き放すような冷たい顔をするのが印象的だった。
二幕、歩めたはずの人生、生まれてきたはずの生命をも奪うというヴィットリオに、それは私は与えることはできない…と感情を失った顔で言うところ。突き放してもなお言い募るグラツィアに対し、自分の欲望に押し負けて抱きしめたあと、私は世界一自分勝手な男だと絞り出すように言うところ。グラツィアへの愛と、生命と、死と、葛藤を繰り返しながら歌い上げる歌はどれも鳥肌ものだった。普段の小瀧さんの感情が乗った力強い歌声が大好きで(ミュージカルはまあそもそも感情を乗せた歌唱を求められますが)、その強さがこれでもかとぶつかってきた。舞台としては3時間弱だが、その中で魂を削って、死神の2日間を「生きていた」。
エリックも本当に良い。歌声にも演技にも説得力がないと一気に薄っぺらくなる曲を、渾身の力で表現しつくしていた。時代背景を一人で背負ってくれたというか。母ステファニーの曲とともに、死神の仕事の残酷さを抉り出す役目を全うしていた。ヴィットリオもただ死神に怯えるだけではない、娘を愛する父の切実な想いに胸を締め付けられた。
そんな周囲の制止を降りきり、サーキ/死神への愛を貫くグラツィア。
山下リオさんは、ヒロインをやるためかのような声質と頭身で、歌声の圧とオーラが半端なく初っ端の「どうすればわかる?」から鳥肌が止まらなかった。誰に何を言われても曲げない芯の強さを感じさせるグラツィア。
美園さくらさんは、どこか皆とちがう夢を見ているヒロイン。溢れ出る育ちの良いお嬢様感。でもそれは地に足がついていない世間しらずというわけではなく、現実を知っていてもなお彼女の信念に基づいて自由を追いかけているような。二人ともそれぞれにサーキ/死神へのブレない愛という説得力があったからこそ、ラストシーンの展開に納得ができた。
それにしても初日の、サーキ王子が登場した瞬間の客席の感嘆のため息がもれるような空気が忘れられない。こんなクラシックキラキラ王子、みんなが見たかった小瀧望すぎる。個人的に普段はお目当てがいたとしても、舞台である以上その人の上に役柄を乗せて観ているのだけど、この作品に関しては役柄の上にその人を観てしまう時がままあった。のんちゃんのサーキ王子格好良い、ではなく、サーキ王子ののんちゃん格好良い……みたいな……(語彙力)
何回も繰り返してしまうけれど、恵まれた体躯と声域、元来持っている華に加えアイドル業で培った魅せ方、これまでのお芝居での経験と演じることへの実直な姿勢、小瀧望さんの全てがこの作品にピッタリとはまったようだった。
そんなわけで初日から興奮の感想が渦巻き、共演者の方々をきっかけに初めて小瀧望/サーキ王子を観た方々からの絶賛の声は、一般のミュージカルヲタク層にも”どうやら『デスホリ』が良いらしい。”という雰囲気を創り出していった。どうしてもキャスティングありき、例えばスタエンのアイドルが出演すれば観客はスタエンのファンが大半(宝塚、2.5次元も然り)となりがちな舞台興行において、小瀧望のスター性がトリガーとなりファンダムの垣根を越えていく=小瀧望という俳優が見つかってゆく瞬間を目の当たりにした(作品の力ももちろん非常に大きいが)。
私も微力ながらアンケートやお手紙を書いてはいたが、贔屓目ではなく大きな反響は体感としてきっとあっただろう。初日はカーテンコールでも緊張がまだ残っているような少し硬い表情をしたままだった小瀧さんが、日を追うごとに余裕も出てきてアドリブも少しずつ増えていき、カーテンコールでも笑顔が見られるようになったように思う。作品としてもカンパニーとしても成熟してゆく様を見守ることができたのは、舞台の醍醐味そのものだった。
個人的な思い出話にはなるけれど、田舎から出てくると同時にミュージカルの魅力にのめり込むようにはまっていった学生時代、シアターオーブは本場のミュージカルを観られる夢のような場所だった。時には当日券の立ち見席で滑り込んで3階席の一番後ろで観たり、先行で1列目が当たって泣きながら観たり、ミュージカルへの憧れと愛だけで駆け抜けた青春時代が詰まった、思い出の劇場。
その場所にまた通い詰める1ヶ月を過ごせたこと。大人になってピュアな感情だけではどうしようもないことを知ってもなお、舞台が好きだという気持ちで生きていけるんだと、劇場と私の大切な思い出がまたひとつ増えました。
そして、次の『梨泰院クラス』ではどんな小瀧望さんが観られるのだろう、と今から楽しみで仕方ない。ミュージカル界、めちゃくちゃ魅力的で技術もあって素晴らしい演技をされる役者さんはたくさんいるしどんどん若手はでてくるけれど、このビジュアルとスタイルと歌声と存在感を兼ね備えた人はきっとなかなかいない。ストレートプレイでの小瀧さんももっと観たいんだけど、当分はミュージカル界が離してくれないんじゃないかな。そうであってほしいな、と願っている。

メモ:カーテンコールの記録
・9/28 初日
トリプルカーテンコールで客席はスタオベ。
小瀧さんご挨拶「本日は誠にありがとうございました。無事、初日の幕を開けることができホッとしています。大千穐楽までどうぞ応援の程よろしくお願いいたします。」
・10/19 山下リオさん東京ラスト
いつものダブルカーテンコールでの「ありがとうございました!」のご挨拶の後、山下リオさんの方を向いて拍手する小瀧さんと、一緒にリオさんの方へ拍手をするカンパニーの皆さん。
・10/20 東京千穐楽
初日ぶりにカーテンコール3回目で挨拶。
小瀧さん挨拶「本日無事、東京公演千秋楽を迎えることができました。ありがとうございます!この勢いのまま大阪公演に臨みたいと思います。ご来場くださったすべての皆さまに感謝申し上げます。本日はありがとうございました。」
喋り終えて両手あげてバンザイ?ガッツポーズ?する座長と、それにならって喜ぶカンパニーのみなさん。幕が下りてバンド演奏の間もスタオベ&手拍子の客席。演奏後、幕があいて真ん中に1人立つ小瀧さん「本当に、本当にありがとうございました!」
余談。WESTube楽屋ルーティーン。
「サーキ王子というロシアのかーなーりハンサムな男!」みたいなセリフがあったけど、そんなハンサムな男の顔を作るメイク工程が短すぎて笑った。そうだよね、小瀧望という男は元々かなりハンサムなんだった。楽屋の張り紙、タップダンスの練習、実直にお芝居に向き合う姿を垣間見れて嬉しい。宝物みたいな映像です。
